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技術が急速に進歩し、人工知能(AI)の可能性が急速に高まっているが、われわれが忘れてはいけないことは、AIを最も効果的に利用するには、まだ人間の力が必要である、ということだ。
AI技術が進化を続け、AIの能力は向上し、さまざまなところで自動化が進んでいる。こうした状況をみれば、多くの人たちがこれからの人間の役割はどこにあるのかと心配になることだろう。観念化したり新しいものを作ったりする能力が人間を他の動物と区別する特徴の一つだとすると、創造力はまさにその特徴に当てはまる。
「創造力」とは
AIが創造的な行動を取れるようになるためのトレーニング例が多数ある。例えば、AIを使うことで自分が撮影した写真にアーティストが発見した芸術的なスタイルを取り入れることができる。こうした加工を可能にする「Prisma」のようなアプリは非常に人気を集めている。また、新しい画像や絵画の制作にAIを使うこともできる。最近では、AIプログラムで創作した絵画がオークションで、なんと43万2,500米ドルで落札された。
AI技術による取り組みをである「創造的行動」と人間の「創造力」とに区別することが重要である。人間が創造力の有無を判断する際、主観に大きく左右される。一方でAIは刺激やひらめきといった体験をできないため、創造力は持てないが、創造的行動というものを学習したり、人間の創造的プロセスを模倣したりすることで、新しいものを作り出すことができる。
AIは、大量のデータセットの処理、データ内のパターンや関連性の発見、明確な目標への最適化、予測などが得意だ。先に述べた絵画の場合、データセットは600年間に描かれた15,000点の絵画である。アルゴリズムを駆使してそれら絵画の特徴を模倣し、その学習に基づいて今回の絵画を創出したのだ。
絵画の事例以外の具体的な「創造的AI」の用途としては、エンターテインメント向け特殊効果の開発、チャットボットを使用した顧客サービスの提供、健康科学分野における新しいタンパク質や化学物質の設計などが挙げられる。
人間知能の役割
人間の知能(HI)は、美術品や文学などの創作や、事業立ち上げの機会を見いだすなどの問題解決に優れている。アートや説明文の作成にAIを使ったとしても、AIはすでに存在するものを模倣しているにすぎない。「新しい」スタイルの美術品や、ダンス、文学を創作するにはまだ時間がかかるだろう。つまり、AIは創造的プロセスの基礎となるパターンは学習できるが、ビジネスの立ち上げなど、一つひとつがユニークで滅多に同じ方法で行われることがないものについては、AIよりHIがはるかに勝っている。
そのため、たとえAIの能力が進歩しても、人間の役割が消滅することはない。AIが学習する事例を作り出すためには専門家の存在が必須であり、私たち人間はAIが目指す目標とパラメーターを提供する必要がある。最終的に「創造力」とはどういうものであるかを決定するのは人間なのである。
Appierでは、AIが洋服をデザインできるかを確かめるために、AIと創造的行動に関する実験を行った。私は先ごろ、シンガポールの技術開発組織であるSGInnovateが主催したイベントで「AIと創造力」というテーマで講演した際に、人間によるデザインとAIによるデザインを紹介した。イベントの参加者の何人かはAIによるデザインを人間が作ったものだと信じていた。これはAIとHIのどちらにも「創造力」があることを示す一例といえるだろう。
AIの能力と限界の把握
当面、技術が急速に進歩し、AIの可能性が高まったとしても、AIを最も効果的に利用するにはまだ人間の力が必要であることを忘れてはいけない。創造的プロセスにAIを導入しても、人間の役割が縮小されることも、AIに代替されることもない。むしろAIは、創造的プロセスを強化して、より素晴らしくより多様なコンテンツを生み出せるよう人間をサポートし、創造的な問題解決の選択肢を模索できるようにしてくれるだろう。
人間がAIを利用する際に最も重要な役割は、何を達成したいかを明確にすることだ。同時に私たちはAIの役割と限界を明確に理解し、AIが最高のパフォーマンスを発揮する上で必要なアセット(とりわけ、AIが分析と学習を行うための充実した良質なデータ)を提供しなければならない。
※この記事は e27 (英語)に掲載されたものの抄訳です。
執筆者について
チーフAIサイエンティストAppierInc.ミン・スンはAppierのチーフAIサイエンティストとして7月9日に入社。Appier入社以前は台湾の国立精華大学にて電子工学部の准教授を務めました。スンは、アンドリュー・エン氏、フェイフェイ・リー氏、シルビオ・サバリーズ氏を含む世界で最も影響力のあるAI研究者が推進するプロジェクトに携わりました。フェイフェイ・リー氏による革新的な画像データベースであるImageNetプロジェクト(2009)において、彼はクラウドソーシングによるアプローチを実施し、プロジェクトに貢献しました。さらにロボット・オペレーティング・システム(ROS)やマイクロソフトKinectの人間姿勢推定システムの研究の初期段階に携わりました。
スンは、2つの米国の商標を保有しています。2017年の夏にAppierが実施した、クリエイテイブAIに関する研究プロジェクトの責任者を務めました。このときに作成した研究論文は、権威あるAAAI2018に採択されました。
専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。三次元物体認識、人間の姿勢推定、環境認識、映像認識、文書要約についても研究を行っています。
2016年、DigitalDriftBestPaperonDeepLearningforVisualAnalysis(1位、2位)を受賞。また、2015年から2017年にはCVGIP(ComputerVisionGraphicsandImageProcessing)より最優秀論文賞を3年連続で受賞しました。台湾のFoundationfortheAdvancementofOutstandingScholarship(傑出人材発展基金会)が主催する6度目のCreativeYoungScholarAwardに選ばれました。
スンは、ワシントン大学にてコンピュータサイエンスおよびエンジニアリング部門にて博士研究員として在籍し、2016年にミシガン大学から電子工学システム分野の博士号を、スタンフォード大学から電子工学の修士号を取得しています。