人工知能(AI)テクノロジー企業のAppier(エイピア、共同創業者/CEO:チハン・ユー、以下Appier)のチーフAIサイエンティストであるミン・スンは、東京大学大学院情報理工学系研究科の准教授である山崎俊彦氏の研究室が現在取り組んでいる「 魅力工学の応用と実装」に関する情報を踏まえ、将来のマーケティグ領域におけるディープラーニング技術の可能性を説明しました。
今回、以下の通り世界で活躍する人工知能(AI)研究者の一人である山崎教授の研究室が進めている「魅力工学」のマーケティング分野でのディープラーニングの活用を紹介しています。
動画URL:https://youtu.be/7GL_IttFpxg
山崎:私たちの研究室は主に画像、マルチメディア、コンピュータビジョンに加え、パターン認識、機械学習を含む画像および映像関連の研究をしており、実社会への応用も行っています。中でも興味を持って進めているのは、基本的な機械学習の応用研究の一つである 魅力工学です。魅力工学について例を挙げると、私たちは日常的に衣服を身に付けていますが、着こなせるかどうかは人によって異なりますよね。衣服を魅力的に着こなすためには、経験やセンス、才能が必要となるかもしれません。私たちは工学的な観点から、魅力の度合いを判定したり、予測したりして、魅力的である理由を説明する研究をしています。理由が説明できれば、魅力を強化することが可能になると考えています。
山崎:魅力工学は、広告分析、プレゼンテーション分析、ソーシャルネットワークにおける人気度、マーケティング、プロモーション、推薦・マッチング、不動産テックなどに応用することが可能です。広告分析の例を挙げると、効果の高かったオンラインバナーと効果の低かったオンラインバナーをそれぞれ1万収集し、そこに魅力工学を適用すると、およそ70%の精度で効果の良し悪しが予測できました。
私の研究室では人間によるバナーの予測も分析しました。日本の広告代理店とコラボレーションして、7年以上の経験がある社員の7人に予測してもらったところ、なんと精度は平均52%でした。広告業界のプロフェッショナルでも、バナーの効果の良し悪しを予測できないのです。この結果は、我々が魅力工学を応用した広告関連プロジェクトを始めるモチベーションの一つとなりました。研究を続けた結果、バナーについて、相関係数0.83というかなり高い精度でクリック率予測を実現できるようになりました。
ミン・スン:マルチメディアにおけるAIの適用はこれまでも研究されていますが、ディープラーニングの登場によって、昔と比べて複数のデータを組み合わせることは簡単になりましたか?今後この領域はどのように発展するでしょうか?複数のデータを組み合わせることは、はるかに簡単になり、機能が向上すると思いますか?
山崎:ディープラーニングのおかげで、画像、音声、または自然言語から抽出されたすべての特徴を、同じネットワークに入力できるようになりました。データがどのドメインから来たのかを気にする必要がないので、マルチモーダル、マルチメディアの研究者は以前よりもはるかに研究しやすくなったと思います。
ミン・スン:デジタルマーケティングにおいては、人々のインターネット上の活動履歴というフィードバックを得ることができるので、必ずしも人間の直感と合う動作をしなくともどんどん自律的に賢くなっていきます。
ミン・スン:私たちはディープラーニングの破壊的なイノベーションを目の当たりにしてきました。将来を見据えて、研究者が取り組むべき重要な課題を教えていただけますか?
山崎:一つ目の課題はディープラーニングの基本理論を理解することだと思います。例えば、ディープラーニングがなぜ、どのようにして、決断を下したのかという「AIの説明性」や、ディープラーニングがなぜ「敵対的攻撃」と呼ばれる手法によって、いとも簡単にだまされるのかに対する考察などです。「敵対的攻撃」についてはすでにいくつか思うところがあり研究を進めています。これは本当に興味深く重要な基礎研究の課題だと思います。二つ目の課題は創造性です。人間の創造性をより高めることができるディープラーニングの活用について研究しています。人間のデザイナーやクリエーターの創造性の向上に貢献することが目標です。
ミン・スン:AIの創造性を高めるというアプローチは素晴らしいと思います。私たち研究者が探求すべきテーマは、画像作成や記事作成などの創造的プロセスをより自動化する方法や、生産性を向上させるツールを提供することだと思います。Appierでも実際、2年前に魅力的な衣料デザインを支援する技術をAAAIという国際会議で発表しています。また、ディープランニングの敵対的攻撃も非常に興味深いです。特にヘルスケアや自動運転などの分野では非常に重要な課題だと思います。このような潜在的な攻撃リスクについて、ディープラーニングを採用しているビジネスの専門家は十分に認識していると言えるでしょうか?
山崎:私はそうは思いません。個人的な見解ですが、すべてをAIに頼るのではなく、人間が意思決定に関与する必要があると思います。例えば、自動運転は高齢者や障がい者、または運輸業にとって非常に便利ではありますが、やはり何らかの意思決定には人間が関与すべきだと信じています。人間が関与する限り、ディープラーニングをだます攻撃リスクも大きな問題ではないはずです。しかし違う意見もあるでしょう。だからこそ、私はこのような基礎研究の問題に取り組んでいます。
ミン・スン:これらの攻撃を検出することができれば簡単ですが、そのためには、攻撃が成立する可能性が極めて低い方法やネットワークを再設計する必要があります。
山崎:それは、ほぼ完璧なウイルス対策ソフトウェアを作成するようなものなので難しいと思います。ウイルス対策ソフトウェアが完璧であるかどうかやリスクの高さについては誰にもわかりません。
ミン・スン:安全と言えるのは、次の新しい攻撃が始まるまでですね。
<過去の対談動画は以下から視聴できます>
※第一弾(理化学研究所兼東京大学杉山教授との対談)
動画URL: https://youtu.be/mgr0GyACvzU
※第二弾(カナダ、ボリアリスAIラボ リサーチディレクターグレッグ・モリ氏との対談) https://youtu.be/ql5lfLxEa2s
※第三弾(理化学研究所革新知能統合研究センター兼NTTコミュニケーション科学基礎研究所上田修功氏との対談) https://youtu.be/tG0NSz6Z7JQ
Appier について
Appier は、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するための AI プラットフォームを提供しています。詳細は https://www.appier.com/ja/をご覧ください。
※過去の発表は https://www.appier.com/ja/news/をご覧ください
ミン・スン プロフィール
2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。
2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。
山崎 俊彦 プロフィール
東京大学大学院情報理工学系研究科准教授。工学博士。熊本県生まれ。 東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。博士(工学)。東京大学大学院新領域創成科学研究科基盤情報学専攻 助教、同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 講師を経て、現職。2011~2013年まで米国・コーネル大学Visiting Scientist。 「刺さる」「映える」「響く」などの言葉で表現される「魅力」の予測・要因解析・増強を行う魅力工学に関する研究を精力的に行っているほか、大規模マルチメディアデータ処理、物体認識・機械学習、最適化、などの研究を行っている。