人工知能(AI)テクノロジー企業のAppier(エイピア、共同創業者/CEO:チハン・ユー、以下Appier)のチーフAIサイエンティストであるミン・スンは、人工知能(AI)の研究分野で活躍中の研究者を紹介する「AIタレントインタビュー」を開始し、このたび第4弾を配信いたしました。
※本インタビューは2020年9月に行われました。 今回の対談ではミン・スンが、東京大学大学院情報理工学系研究科の准教授である山崎俊彦氏に、前回の魅力工学に引き続き、「産学連携と新型コロナウイルス感染拡大下における大学教育」を中心に、人工知能(AI)研究に携わる学生へのアドバイスも含めて伺いました。
動画URL: https://youtu.be/7GL_IttFpxg
ミン・スン:山崎先生は多くの企業とコラボレーションされていますが、どのようにして数多くの「産学連携」を実現されているのでしょうか?企業とのコラボレーションは日本の教育機関では一般的なことなのでしょうか?
山崎:日本では大学の研究室と企業のコラボレーションは一般的ではないと思います。もちろん国や大学からは、「もっと産学連携を」と奨励されています。しかし、企業との共同研究は大変です。私の場合、日本だけでなく世界中の30〜40の企業や組織と共同研究してきました。「東京大学の先生」なので、共同研究の相手を見つけるのはとても簡単だと思われるかもしれませんが、全く簡単ではありません。
産業界に誰も知り合いがいない中で、私が最初にしたことは、多くの技術関連の会議や勉強会に出席することや、企業からの参加者らとよく話しをすることでした。「なぜ産学連携をしたいのか」を業界のエンジニアに伝えていきました。根気よくこのような努力を続けていると、業界のエンジニアたちに私たちが真剣だと伝わります。彼/彼女らも真剣に私たちに協力しようと思ってくれるので、データの共有や意見交換をスムーズにでき、良い関係を築くことができています。
ミン・スン:それは素晴らしいですね。研究者の情熱がコミュニケーションの突破口となることに気づかされます。その分野の専門家とうまくコミュニケーションを取り、彼/彼女らにとって達成すべき重要なことをこちらが理解することは、立ち返って彼/彼女らが目標を達成するために、こちらが貢献できる武器は何であるかを確認できます。
山崎:「情熱」は非常に重要なキーワードです。
ミン・スン:新型コロナウイルスは、山崎先生の研究や教育に影響を与えていますか?また、新型コロナウイルスの影響にどのように対応しているのでしょうか?
山崎:私たちは「コミュニケーション」の面で、新型コロナウイルスに大変影響を受けています。 私たちの研究グループは、世界中のどこでもプログラミングを行うことができるので、研究の進歩という観点からはあまり影響を受けていないと思います。しかし、問題は「コミュニケーション」です。新入生や新しいスタッフを迎えて、4月には新学年が始まりました。
しかし、研究室に参加する新入生やスタッフは、彼/彼女たち同士で会うことができていません。私はオンラインで彼/彼女らに会えていますが、学生たちは質問があっても誰に聞けば良いかわかりません。これは深刻な問題です。
多くの人は「オンライン講義があるだろう」と言いますが、大学の存在意義を考えると、 大学の価値は私たちが集まれる場所だと思うのです。大学という場所にいけば友達を作ることができる、さまざまな分野の多くの教員や他の分野の研究者と知り合いになることができます。それが大学や他のコミュニティが提供できる価値です。 オンラインで勉強することは可能ですが、自分自身や自分の世界を拡大することはできません。 その観点から、新型コロナウイルスは私たちに大きな影響を与えており、できるだけ早く通常の状態に戻したいと思っています。すべてが正常に戻ることはできないと思いますが、段階的に再設計しています。
ミン・スン:まさにその通りですね。新型コロナウイルス感染拡大以前の大学に通っていたときは、才能のある人たちが付かず離れずの絶妙な距離感でひしめき合っていました。例えば、いつでもキャンパスで声を掛け合い、廊下で会話に花を咲かせることができました。しかし今、人とコミュニケーションするためにはオンライン会議を手配する必要があります。新入生にとって教授と1対1のオンライン会議を設定するのは緊張を伴うことですね。
山崎:オンラインビデオ会議ツールは非常に便利ですが、私たちが「すでにお互いを知っている」という特定な状況であることが基本条件です。
ミン・スン:新型コロナウイルスがデジタルトランスフォーメーション(DX)の原動力となったと言われています。実際に、デジタルトランスフォーメーションについて体験するような変化はありましたか?学校や共同研究している企業ではどうでしょうか?
山崎:それは本当に学校や企業などの組織がどれだけ柔軟であるかに依存します。一部の企業では、人工知能(AI)主導、またはテクノロジー主導のサービスに大幅に移行し、非常に大きな成功を収めたと聞いています。一方で、他の企業は現状維持を貫きたいと考えています。変えたくない人もいます。変化を好まないのです。どちらが正しいかわかりません。多分両方の決定は正しいです。それは本当に彼ら次第です。
ミン・スン:変革が重要だと思いますが、ユニークであることも重要です。結局のところ、専門家は市場を予測できずにいるのではないでしょうか。私が実際に信じていること、そして山崎先生のお話しと一致していることは、「データフィードバックがある限り、この戦略が良いかどうかを知ることができる」という点です。
ミン・スン:最後の質問ですが、最近の人工知能(AI)分野の学生や研究者にアドバイスはありますか?私たちがいますべきことはどんなことでしょうか?また、来年または数年後の新型コロナウイルスが収束した後に、私たちは何を期待すべきでしょうか?
山崎:答えるのは非常に難しい質問ですが、特定の研究分野や研究トピックに固執しないことだと思います。 「固執しないで」とアドバイスしたいですね。言い換えれば、この不安定な時代に生き残れるよう、自分の視野や研究領域を拡大すべきだと思います。何かに固執することは非常に危険なので、より広い視野を持つ必要があると、若い世代にアドバイスしたいです。
また、研究者は外国の研究者と競争する必要はないと思っています。彼/彼女らは外国のコミュニティに飛び込み、一緒にコラボレーションし、良いと思ったものは自分のコミュニティに持ち帰れば、自分のコミュニティも飛び込んだ先のコミュニティも更に発展していけるのだと思います。だから、競争意識により、何かを変に隠す必要はありません。私の個人的な意見ですが、すべての人と情報を共有する必要があります。日本の人工知能(AI)研究者への私のアドバイスは、何かに固執せず、オープンでいることです。 もう1つは、これは自分の身の回りにはいつも言っていますが、歴史が示すように、ディープラーニングはすぐに別のものに置き換えられます。学生にはディープラーニングに固執しないようにアドバイスしています。最近の学生は、ディープラーニングのことだけをやりたい、ディープラーニング関連のプロジェクトでなければ、興味がないといいます。ただ、約10年ごとに技術革新は起こります。
2012年に、ディープラーニングは私たちの世界にもたらされました。ですから、ディープラーニング関連のテクノロジーは今後5年以内に別のものに取って代わられると強く信じています。私たちはその準備をしなければなりません。
学生に教えるときは、ディープラーニングの勉強だけをするのではなく、背後にある基本的なテクノロジーを理解すべきだよ、と教えています。それが、私がいつも生徒たちに与えるメッセージです。
ミン・スン:とても深く同意します。時代時代において最良と呼ばれるアルゴリズムは所詮人間が開発したものであり、特定のユースケースに最適化されたものです。来たる新技術に備え、柔軟かつオープンでいるということが重要だと思います。産学連携は学術界、産業界両方にとってもっと増やしていくべきですね。産学連携の事例、そして数々の素晴らしい経験・意見を共有していただき、ありがとうございます。 これまでのインタビュ動画は以下から視聴が可能です。
※第一弾(理化学研究所兼東京大学杉山教授との対談)
動画URL: https://youtu.be/mgr0GyACvzU
※第二弾(カナダ、ボリアリスAIラボ リサーチディレクターグレッグ・モリ氏との対談) https://youtu.be/ql5lfLxEa2s
※第三弾(理化学研究所革新知能統合研究センター兼NTTコミュニケーション科学基礎研究所上田修功氏との対談) https://youtu.be/tG0NSz6Z7JQ
Appier について
Appier は、AI(人工知能)テクノロジー企業として、企業や組織の事業課題を解決するための AI プラットフォームを提供しています。詳細は https://www.appier.com/ja/をご覧ください。
※過去の発表は https://www.appier.com/ja/news/をご覧ください
ミン・スン プロフィール
2005年からGoogle Brainの共同設立者の一人であるAndrew Ng(アンドリュー・エン)氏、元Google CloudのチーフサイエンティストであるFei-fei Li(フェイフェイ・リー)氏などのプロジェクトに携わり、AAAI(アメリカ人工知能学会)をはじめ世界トップの人工知能学会で研究論文を発表。
2014年に国立清華大学の准教授に就任。2015年から2017年には、CVGIP(Computer Vision Graphics and Image Processing)Best Paper Awardsを3年連続で受賞。専門分野は、コンピュータビジョン、自然言語処理、深層学習、強化学習。2018年には「研究者には肩書きよりもデータが必要」と感じ、AIテクノロジー企業AppierにチーフAIサイエンティストとして参画。新製品の開発、既存製品の機能改善のほか、記述的な課題解決を行う。
山崎 俊彦 プロフィール
東京大学大学院情報理工学系研究科准教授。工学博士。熊本県生まれ。東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。博士(工学)。東京大学大学院新領域創成科学研究科基盤情報学専攻 助教、同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 講師を経て、現職。2011~2013年まで米国・コーネル大学Visiting Scientist。 「刺さる」「映える」「響く」などの言葉で表現される「魅力」の予測・要因解析・増強を行う魅力工学に関する研究を精力的に行っているほか、大規模マルチメディアデータ処理、物体認識・機械学習、最適化、などの研究を行っている。