通勤中にスマートフォンで見た家具の広告が、帰宅後にタブレット端末に表示されたので購入した―。当たり前に見えるが、複数の情報端末(クロスデバイス)を使う人に最適なタイミングで端末に広告を流すのは簡単ではない。膨大なデータと高度な解析が必要だ。台湾のエイピア(Appier)は一連の技術を簡単に使える人工知能(AI)サービスとして展開している。購買行動もデータとAIで変わるかもしれない。(2回連載)
エイピアは、クッキーなどの膨大な情報をAIを使って分析し、“インターネット上でのふるまい”の特徴から“対象ブラウザーを持つ人の属性や行動特性”を推定したデータベース(DB)「クロスXデータベース」を持つ。分析したユーザーやデバイス数は20億以上。例えば、オンラインショップの運営者は、利用者の情報などとエイピアのDBを照合することで、インターネット上のふるまいの類似性から利用者の属性や趣味、行動特性などを推定できる。
さらにAIを使った分析ツール「AIXON(アイソン)」は、利用者の次の行動を予測したり、ウェブサイトを訪れたことのない潜在顧客を見つけるなど、より高度な分析も行える。
また、情報ネットワーク上で別々に認識される端末の中から、同じ人が併用する複数端末を見つけることもできる。これを専門家でなくても利用できるサービスとして提供しているのが特徴だ。チハン・ユー最高経営責任者(CEO)は、「さまざまな企業が革新に追いつくように手伝いたい」と話す。
プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのマジック・ツー氏は、「社内のデータサイエンティストが0人でも、(高度なデータ利用の)旅を始められる」と話す。同社のDBを利用する顧客には、データ解析専門の社員のいない企業も少なくない。
仏カルフールで台湾エリアの電子商取引(eコマース)を担当するジルベルサ・プレスコット氏は、「エイピアからのデータで、戦略はどんどん変わった」と明かす。eコマースは実店舗と違って男性客が多く、男性はウェブ上のキャンペーンの効果が高いこともわかってきた。カルフールは16年にエイピアのクロスXを導入した時はデジタル初心者。経営層の中にはウェブへの投資を疑問視する声もあったが、今では月単位の購入額が20―25%増加するなどのAIの効果が出ている。
日本でも、不動産情報サイト「ライフルホームズ」を運営するLIFULLや、個人間取引マーケットを運営するGMOペパボが、エイピアのAIサービスを導入している。
米グーグルや米アマゾンといった巨大IT企業は、膨大なデータと高度な解析による果実を獲得し、それ以外の企業との差が開いている。特に小売業界ではアマゾンに顧客を奪われるアマゾン・ショックが後を絶たない。ツー氏は「(エイピアはショックを)緩和できる」と話す。利用者を知れば知るほど、個人に合わせてアプローチでき、結びつきを強められるからだ。
巨大IT企業以外にも、膨大なデータとAIを広告に生かす道ができ始めている。