ミンユー・(ロバート)・チェン Appier 最高技術責任者(CTO)
ChatGPTやBardなど、大規模言語モデル(以下「LLM」)の目新しさをもてはやす時代は終わりました。LLMは、ビジネス界ではもはや必需品となっています。生成AIの活用に対する企業の支出は、2023年から2027年までの年平均成長率で86.1%、2027年には1,511億米ドルに達すると予測されており 1、AIアプリケーションへの関心が急騰していることを示しています。
当初のLLM人気は落ち着き、現在は、AIモデルを事業により深く統合することに重点が置かれ、企業の戦略に昇華されています。例えば、マッキンゼー・アンド・カンパニーが毎年実施する「AIの現状」に関する調査 2によると、企業の3分の1が、少なくとも一つの業務において、生成AIを定期的に活用しており、また、AIを活用する企業の25%が、生成AIはすでに取締役会の課題として議論されていると回答しています。
企業のテクノロジー活用が顕著に増加する中、企業は収益力を強化しており、2024年は、生成AIのソリューションが、より戦略的で的を絞ったアプローチとなる流れであり、LLM導入においても転換点となる重要な年です。この進化は、AIが実験的なツールから、事業戦略とオペレーションの構成要素になるという新時代の幕開けです。
LLM導入について 2023年 vs. 2024年
2023年の動向としては、たとえ社員がChatGPTや他のLLMを試していたとしても、主にメールの下書きやメッセージの返信用としてでした。その中には、企画書や長文の文書作成に使っていた強者がいたかもしれませんが、LLMで作成したほとんどの文書は、社内用として扱われていました。事実誤認や錯覚する可能性を考えると、社外に公開するコンテンツにLLMを導入するのは賢明とは言えませんでした。
しかし現在、LLM開発者は1年間の検証と改良を経て、事業向けの(ビジネス版)製品を発売しつつあります。特に、カスタマーサービスとコンテンツ作成の2つの分野で、LLMアプリケーションの品質と導入が大幅に向上しており、期待されている分野です。
なぜ2024年なのか?
技術進歩と市場心理 ー この重要な2つの要因が重なり、2024年はLLMアプリケーションの大量導入年になると言えます。ChatGPTが2022年11月にローンチして以来、LLMはテキスト補完や分析モデルを皮切りに、コードの実行 3、ツールの使用、外部知識へのアクセス、ウェブ検索の機能を備えた強力なチャットボットへと進化していきました。言い換えれば、12カ月足らずの間に、テクノロジー・コミュニティ全体が、すでに革命的だったツールにさらなる革命を起こしたことになります。
しかし、このような技術革新があっても、経営幹部が投資をしなければ、市場価値は生まれません。2023年は、まさにそれが実現した年でした。経営者層(CEOs) の多くが、AIへの投資を「最優先事項 4」と位置づけ、AIソリューションを事業運営に導入することに賛同したことは明白です。
各分野に特化したLLMが、より多くの業種で実用化されれば、企業での生成AIソリューションの採用や展開はますます容易になります。さらに2024年は、LLM開発の重要懸念事項の一つであるデータ・セキュリティに対処すべき年でもあります。企業のデータを自社システム内に留めておけるソリューションができれば、技術開発者は、既存のソリューションをこれまでより安全かつ強力な状態にしておくことができるため、リスク回避を念頭におく経営者(CEOs)にとっても、魅力的なソリューションとなります。
2023年は、各国政府や監視機関がAIに対する規制に苦慮する場面もありました。2023年12月、欧州連合(EU)は、AIの使用を規制し制限するための画期的なルールとなる「AI法 5」に合意しました。端的に言えば、この法律では、何が許可され何が禁止事項にあたるのか、基本ルールを定めています。これが制定されれば、のちに続く影響力も含め、テック企業のAIソリューションへの取り組みに影響を与えるようになります。
LLMアプリケーションは、より強力かつ賛同を得やすくなっており、また、明確化されたことで、世界中の大企業に大量導入される態勢が整いました。
カスタマーサービス、コンテンツ作成とLLM
例えば、ChatGPTが、ウェブサイトのカスタマーサービスのチャットボットだとします。おそらく、リアルな人間とボットは区別しにくいでしょう。LLMチャットボットをカスタマーサービスに統合することで、企業は常時顧客に対応できるようになり、コスト削減に繋がる可能性があります。実際、その企業や企業から得られる経験に対して、消費者の要求が高まるつれ、LLMチャットボットはよりパーソナライズされた対話を提供し、より良い顧客満足をもたらすための答えになるかもしれません。
コンテンツ作成にLLMを使う利点の一つはスピードです。LLMの回答が気に入らなければ、プロンプトを言い換えて提示すれば、1分もかからずに新たな提案が出てきます。これは、多変量テストや反復が鍵となるマーケティングや広告において、特に有用です。広告スローガン、ブログ記事、ショートストーリーなど、LLMは学習された膨大なデータを使って新しいアイデアや文章を生み出すことができます。
また、スピード感だけではなく、企業がコンテンツ作成にLLMを利用するようになったのは、形式、スタイル、文章のトーンなど、コンテンツの多様性に対応しているためです。ChatGPTが初めて登場したときに懸念されたのは、すべてが同じようになってしまうことでした。ChatGPTにある特定のトピックに関するSEOブログ記事を依頼すると、そのトピックに関する記事は全て同じになってしまいます。しかし、プロンプトエンジニアリングの機能により、それが避けられるようになりました。
ChatGPTや類するソリューションでも、プロンプトの表現を少し変えるだけで、同じトピックでも異なるコンテンツを生成できます。さらに重要なのは、ユーザーがLLMコンテンツの作成にあたり、特定の文体や文調をリクエストできることです。もちろん、ここでは反復が重要になりますが、熟練したユーザーならLLMを繰り返し使い、より自分らしく聞こえるように訓練できます。最終的なゴールは、LLMが可能な限り短時間で、ビジネスライクな優れたコンテンツを提示することです。
LLMは2024年とその先のビジネスの未来をどう再定義するのか
実験的なツールだったLLMが、2024年を迎え、不可欠なビジネスの資産へと変貌するのは明らかです。技術面の大きな進歩により、今ではカスタマーサービスやコンテンツ制作などの分野で、卓越した効率とカスタマイズ性を発揮しています。今年は、技術的な進歩だけでなく、ツールを事業運営の基盤に統合させて、進化する規制や経営者の戦略と整合させていくことが重要です。
LLMの採用が広域になっている事実は、LLMがビジネスの運営、コミュニケーション、事業革新に革命をもたらす可能性を示しています。この変化を目の当たりにすると、LLMはビジネスの未来の一部であるだけでなく、その未来を前向きに整え、デジタル化が進む世界で成長と効率化のための、新たな道を提供していることがわかります。
Dr. Ming-yu “Robert” Chen (ミンユー ”ロバート” チェン博士)
最高技術責任者 (CTO)
ミンユー ”ロバート” チェン博士は、Appierの最高技術責任者を務めています。チェン博士は、組織における技術戦略の実行、大手企業でのリーダー経験、グローバル展開の大規模プラットフォームの構築、さらに、最先端AI技術に関する研究において、20年以上の豊富な経験を有しています。
Appierでは全ての製品ラインを横断し、技術開発をリードしています。また「CrossX」やエンタープライズ向け製品のR&Dも指揮し、高LTV顧客の獲得、顧客のリターゲティングから維持・エンゲージメント、取引実行の加速、顧客インサイトの生成に至るまでの製品戦略を立案しています。高度な意思決定に関するAIと生成AIの応用における彼のリーダーシップは、Appierの製品を強化し、顧客企業のROIを効率的に最適化しています。
以前所属していた不動産テクノロジーのCompass社では、代理店や顧客にとって初となる近代的な不動産エンドツーエンド・プラットフォームを構築しました。同社において、AI/ML、ビデオ、デジタル広告、マーケティング技術、プラットフォーム仲介サービス担当の300人以上のエンジニア、そして科学者で構成されるグローバルエンジニアリングチームの責任者も務めていました。
また、それ以前に所属していたZillowでは、業界初のクラウドベースで住宅評価システムを構築し、さらにマイクロソフト社在職時には、機械学習技術を取り入れた大規模ニュースのレコメンデーションシステムを構築し、ユーザーのパーソナライズ体験を向上させました。
チェン博士は、米国のカーネギーメロン大学でコンピュータサイエンスの博士号、国立台湾大学でコンピュータサイエンスと情報工学の理学士号を取得しています。博士課程在学中には、IBMのマルチメディア分野における、新世代リーダーの一人に選出されています。