不確実性の高い時代--企業がAIにかじを切る理由
Appier エンジニアリング部門 バイスプレジデント ミン・ユー(ロバート)チェン博士
Appier チーフマシンラーニングサイエンティスト ソウドウ・リン博士
Appier チーフAIサイエンティスト ミン・スン博士
2022年下半期はインフレ率の上昇や不透明な経済の先行き、そして企業による大量解雇のニュースが世界中を揺るがしました。2023年を語るに当たり多くの専門家の間では、サプライチェーン(供給網)の問題や人材獲得の競争激化など企業がさまざまな課題 (英語) に直面すると予測されています。
2023年の見通しは険しいようですが、課題があるところにチャンスもあります。例えば、新型コロナウイルス感染症により企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速 (英語) し、事業形態は一変しています。Appierでは高度な人工知能(AI)を実装したマーケティングソリューションを提供していますが、パンデミック(感染爆発)により企業がAIソリューションの導入に前向きな様子を目の当たりにするとともに、この不確実な時代を前にさらなるAIへのかじ取りを見込んでいます。
マクロ経済や外部環境が厳しさを増す中、企業は社内リソースに頼ることで事態を乗り切る必要があります。AIソリューションの活用はその一つとして、事業の運用コストを削減しながら事前に予測が立てられることで高い費用対効果をもたらすツールとなります。AIは社内リソースとして急激にその存在感を増しており、企業の投資が慎重になればなるほど、また中長期的な視点においてもAIがもたらすメリットは大きいものです。
Appierでは2023年に向けて以下の3つの事業領域でAIソリューションを活用する企業が増えると予想しています。
(1)生産性:より少ない労力でより多くを得る
企業が支出を削減し、人材採用を凍結している時代に、AIはより少ない労力でより多くのことを成し遂げる論理的なソリューションとして台頭しています。生産性に関して言えば、自動化することで日々の多くのビジネスプロセスや業務に費やす時間を手早く短縮することができます。AIによる自動化を際立たせているのは、リアルタイムの状況変化に応じて拡張・調整する能力がある点です。
AIシステムの学習能力は従来の自動化だけでは不可能とされていた次元で企業に柔軟性をもたらします。例えば、EC事業を営み、商品配送を自動化することを想像してみてください。この場合、AIを活用することも活用しないことも可能ですが、AIを使う利点は機械学習モデルが供給、天候、交通など配送に影響を与えるさまざまな変数を考慮し、企業や顧客にとって最適かつ最も費用対効果の高い判断を下す手助けになることです。
AIを活用することで自動化だけではなく、できるだけ迅速かつスムーズに目標を達成できるよう適宜調整を行えるようになります。
例えば、マーケティング活動や広告にAIによるオートパイロット(自動巡回)機能を活用すれば、広告予算の配分や入札戦略を自動で行うことができます。またAIが24時間体制で稼働し、あらゆるキャンペーンを予定通りに進める一方、人間は早く仕事を切り上げて人生を満喫する時間を増やせるでしょう。
(2)分析と予測:信頼できるのは透明性の高いAI
データ分析にAIを活用するのは特に目新しいことではありません。しかし、AIがどのようにインサイト(洞察)と予測を生成するかはいまだ謎めいています。企業の幹部はAIソリューションの導入に前向きにですが、AIモデルがどのような手法や根拠により結論や提案、推奨などに至るのかという疑問はなかなか解消できていません。
そこで、AIのブラックボックスをガラスの箱に変えるべく、AI企業は説明可能なAIシステムとソリューションを開発しました。「説明可能なAI (英語) 」とは、AIがどのように判断、推奨、予測に至ったかの根拠を提供することを目的としています。この情報で人間はAIとAIの「思考プロセス」をよりよく理解できるようになり、一つの選択に関してその妥当性を関係者に納得させることが容易になるはずです。
例えば、AIがどのようにして最適なコンテンツを見極め、消費者に勧めているのか。なぜ購買を戸惑う人を見つけることができ、さらに割引などのクーポンを配信するのか。
このような疑問に対して、AIソリューションの利用者は回答を求めています。企業がコスト削減を目指し、成果が得られるソリューションのみの導入を検討している場合、この説明可能なAIであれば、意思決定者がAIソリューションの有用性を評価するために必要な根拠を提供することができます。
(3)コンピュータービジョンでレコメンデーションやクリエイティブの訴求力をより高める
近年、注目を集めているAIの分野の一つに、コンピューターがデジタル画像や動画などの視覚データを処理、分析し、意味のある解釈を可能にするコンピュータービジョンがあります。コンピュータービジョンには視覚的な入力を理解することと視覚的な出力を生成することの2つの側面があり、ビジネスにおいて大きな利益をもたらすと考えられています。
コンピュータービジョンモデルの進歩により、限られたデータ入力でより正確かつ強力な画像認識が可能になりました。以前は、人間の脳と同じようにコンピューターがデータを処理する「畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network)」を画像認識に使用していました。しかし、最先端な変換モデルを用いることでAIシステムは画像全体の重要な部分をより自由に把握し、それぞれの画像や映像の中のコンテンツを識別し応じることでインサイトを得られるようになりました。
画像認識の応用として相応しいものは商品のレコメンデーションです。AIソリューションが個々のブラウザーで何が見られているかを把握し、それぞれの画像の類似性やパターンを分析することでユーザーが探しているものに最も近い商品をお勧めします。
コンピュータービジョンは認識するだけに止まらず、視覚的なアウトプットを生成することも可能です。ここ数年、ユーザーが幾つかの単語や文章を入力すると自動的に画像を生成するウェブサイトやアプリが数多く登場しています。これらのシステムでは、一般的に「敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network)」を使用しており、安定した良好なビジュアルを作成するためには大量のデータを必要とします。
最近の拡散モデルに関して言えば、その技術は異なるものの生成学習と同じ目的を達成しつつ多様なアウトプットを得ることが可能になりました。当モデルでは制御が容易になり、少ないデータでより多様な量のアウトプットを生成することができるようになりました。
使用するモデルに関わらず、「ジェネレーティブAI」(生成系AI)により企業はクリエイティブ(制作物)をより迅速に作成できるようになります。さらに重要なことは、ジェネレーティ
ブAIが企業のソーシャルメディアのフォロワーがコメント欄に残したフィードバックからフォロワーが見たいと思っているものを取り出し、文章内のアイデアを加工して新しいイメージを作り出せることです。クリエイティブのプロセスが一般化され、真にユニークな物を生み出すことにつながります。
ユニークで適切なクリエイティブによって、企業はクリックスルー率やコンバージョンを向上させることができます。パーソナライズされたコンテンツと目を引くクリエイティブで効果的にコンバージョンを導くことは、Appierが力を入れているマーケティング領域でもあります。AIやAIアプリケーションの発展により高度なモデルやアルゴリズムが導入されることで、最先端のAIレコメンデーションやAI生成クリエイティブが作成されています。これらはマニュアルやルールベースで作成されるものを上回っています。
AIは現在であり、未来である
今がまさにAIの時代です。世界経済が不安定な状況下において、AIのテクノロジーとアプリケーションはニッチなものから主流派となり、今後多くの事業はAIなしでは十分なパフォーマンスを発揮できないでしょう。ますます多くの企業がDXを必要とし、それに取り組む中でAIの役割は広い領域で一層増大して行くことが予想されます。